第10回:意思決定のための会計(3)<差額収益・差額原価・埋没原価>

公認会計士 森川智之

 意思決定のために会計を使ううえで必ず理解しておく基本的なものに「差額収益」、「差額原価(差額費用)」、「埋没原価」があります。

 差額収益や埋没原価はPLを見てもどこにも記載されていません。財務会計では用いられない収益や原価ですが意思決定のための会計にとっては基本中の基本なのでしっかりと理解しておく必要があります。

差額収益・差額原価(差額費用)

 差額収益はある代替案を採用した場合に得られる収益と他の代替案を採用した場合に得られる収益との差額です。例えば、第8回の例のA事業部を廃止することを検討した場合には、廃止するという代替案を選択した場合には売上高が無くなることとなるため売上高の減少額となる10,000百万円が差額収益となります。また、ある製品を内製すべきか、外注すべきか検討している場合には、どちらの代替案でも売上は同じ金額となることが予想されるため差額収益は0円となります。

 差額原価も、差額収益と同様のもので、はある代替案を採用した場合に発生する原価と他の代替案を採用した場合に発生する原価との差額です。また実務の立場からいえば差額原価と差額費用はほぼ同じ内容のものと理解して差し支えないでしょう。

 

埋没原価

 埋没原価は差額原価と逆の概念でいずれの代替案を採用した場合においても変化が生じない原価(費用)です。過去に支出された投資などが埋没原価の典型例です。

※なお、埋没原価(サンクコスト)といった場合に、上記よりも狭い意味に捉え過去に支出されて回収不可能な金額を示すことがあります。特に経済学や政策論においてこの意味を用いることが多く、また埋没原価の「埋没」という言葉の語源でもあるため若干紛らわしい面もあります。しかし、意思決定のための会計という目的を考えた場合には上記の意味(でいずれの代替案を採用した場合においても変化が生じない原価)の方がより目的に沿っているので、このWebセミナーでは特に断りが無い限りこの定義を用います。

 

差額収益・費用と埋没原価の重要性

 繰り返しになりますが、差額収益・差額費用と埋没原価は意思決定のための基本で、十分に理解できていなければ意思決定のための会計を役立てることは難しく、裏返せばこの基本をしっかり理解し、身に着け、実際の意思決定に活用するだけでも意思決定の質を良くすることは十分に可能です。

 また差額収益・費用と埋没原価の理解は、代替案の評価・比較を通じて分析的な意思決定の方法に役立つだけでなく、直感的な意思決定の質を良くすることにも役立ちます。それぞれの意思決定の方法にどのように役立つのかということについては次回以降に順を追って解説していきます。

 


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